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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)9793号 判決 1982年1月28日

原告

中日産業株式会社

右代表者

森野文通

右訴訟代理人

赤井文彌

船崎隆夫

生天目巌夫

岩崎精孝

竹川忠芳

被告

第一共和商事株式会社

右代表者

三山清

右訴訟代理人

中條秀雄

大塚喜一

主文

一  被告は原告に対し、金一六三万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五六年二月二二日から支払ずみまで年一八パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求原因1について

1  甲第一号証の一、二(リース契約書)の成立について判断するに、被告名下の印影が被告の印章によつて顕出されたものであることについて当事者間に争いがない以上、右印影は被告の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定することができ、従つて右リース契約書全体の成立の真正を推定することができる。

もつとも、被告は、被告代表者三山と原告会社の営業担当者吉田広志(以下「吉田」という。)との間の話し合いの過程において、合意に至らない段階でとりあえず被告の右押印がなされたに過ぎず、被告が押印した段階では甲第一号証の一の太い線で囲んだ欄は空欄であつて、後に原告が勝手に右空欄をうめたものであると主張するので、この点について判断する。

<証拠>を総合すれば、昭和五五年一月二五日に被告が右リース契約書に押印した段階において、既にリース物件の機種が決まり、右物件の納入及びその納入場所についても合意が成立していたことが認められ、また、リース料、リース期間についても、後に両者間において電話で打合せないしは訂正がなされているところからみて、右押印の段階で、甲第一号証の一の太い線で囲んだ欄は白であり右押印後に原告において記入したものではあつたが、その押印時において記入内容については大筋の合意が成立していたことを認めることができる。

2  被告は更に、本件リース契約は原告と訴外ミナト商事との間で締結されたものであり、被告代表者三山は個人として原告と訴外ミナト商事との間の仲介斡旋をしたに過ぎないと主張するので、この点について判断する。

<証拠>によれば、本件リース契約の当初から被告代表者三山が原告側に対し、契約の当事者が訴外ミナト商事である旨を明確に告げていた事実は認め難く、むしろ被告が昭和五五年四月二二日に旭センターの営業を訴外ミナト商事に譲渡するまで旭センターは被告の店であり、現に被告が納入されたリース物件を営業に使用していた事実が認められる。そして、甲第一号証(リース契約書)の賃借人名義も被告であり、訴外ミナト商事の名義はどこにも現われていない。以上の事実によれば、被告が本件リース契約の当事者であるというべきである。

3  以上のとおり、<証拠>によると、原告の主張のとおりの内容のリース契約が原告、被告間に成立したことを認めることができる。

二請求原因2の事実のうち、原告がリース物件を旭センターに納入した事実は当事者間に争いがない。

証人吉田は、右納入の期日について納入予定日である昭和五五年二月七日に納入された旨証言するが、にわかに信用することができず、結局被告代表者の自認する同年二月末ころまでに納入されたと認定するのが相当である。なお、右リース物件が旭センターに納入されたころ同センターが被告の経営の下にあつたことは理由一、2で認定したとおりである。

三請求原因3の事実のうち、被告が原告に対しリース料の支払いを一切していない事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、被告が昭和五五年四月二二日に旭センターの営業を訴外ミナト商事に譲渡するに際し、原告に無断で本件リース物件を同商事に譲渡、引渡をした事実が認められる。

四仮定抗弁について

原告がリース物件をリース期間満了前に旭センターから引揚げた事実は当事者間に争いがない。そこで、右引揚がなされた期日について判断するに、<証拠>によれば、昭和五五年四月中に原告側から引揚げる旨の通知があつた事実が認められるだけで、他に同年五月一〇日頃に引揚がなされたことを認めるに足る証拠はない。そこで、少なくとも原告が自認する同年五月末日までに右引揚げがなされたと認定するのが相当である。

五再抗弁について

本件リース契約が通常の賃貸借契約なのか、それともいわゆるファイナンス・リース契約なのかについて判断する。

ところで、ファイナンス・リースとは、ユーザーが機械・設備等を必要とするが、購入資金がない場合に、リース会社が右目的物をディーラー(サプライヤーとも呼ばれている。)から買い取り、これをユーザーに貸付けて一定額のリース料を回収するもので、経済的にはユーザーに対する金融手段としての性格を有するものである。従つてこの場合、リース料の支払は経済的には金銭消費貸借契約における元利均等割賦返済金を意味し、リース料の額は、物件の代金に、固定資産税・保険料などの諸経費、金利、手数料を加えた金額からリース期間満了時における物件の残存価額(普通、残存価額は零と見込れているようである。)を控除した金額をリース期間内に回収できるように定められている。そのためファイナンス・リース契約においては、契約時(納品時)にリース料債権の全額が発生しており、ただ割賦支払の方法により期限の利益が与えられているに過ぎないのであり、賃貸借における賃料のように使用収益の期間に応じて対価が支払われるわけではないと解される。それで、リース料は、金利の他に手数料その他を含むから、賃借人にとつては借入をして購入するよりも当然割高になるが、適当な担保物件がなくても設備が調達でき、減価償却など経理事務の負担の経減、節税効果などのメリットがあるので、産業界、就中遊戯場の営業においてリースが数多く利用されているものとうかがえる。

右のようなファイナンス・リース契約の性格を反映して、リース契約書には、一般に、次のような普通の賃貸借契約書にはみられない特約が設けられている。それは、(1)リース会社はリース物件についての担保責任や保守、修繕義務を負担しない、(2)ユーザーからの期間中の解約を認めない、(3)契約違反があつた場合、ユーザーはリース料についての期限の利益を喪失し、即時リース料残額の支払の義務を負う等の特約である。

右ファイナンス・リース契約の特徴に照らして本件契約を判断するに、本件契約書(前掲甲第一号証の一、二)には次のようにリース契約に特徴的な条項が多数みられる。1ユーザー(被告)からの解約の禁止条項(第二条一項)。2リース料の支払方法(第三条)。納品日に一括して約束手形を振り出すというやり方は、契約日(納品日)にリース料債権の全額が発生することを前提とするものである。3リース会社の瑕疵担保責任及び保全修理義務の免除の条項(第七条及び第八条)。4契約違反の場合のリース料残額全部についての期限利益喪失約款(第一六条一項)等はリース契約の特徴を表わす条項といえる。

なお、本件契約の場合、ディーラーの表示がなく、物件の引渡がリース会社(原告)からなされているようであるが、右事実が直ちに本契約がファイナンス・リース契約であることを否定するものとは考えられない。また、被告は、本契約において毎月のリース料が定められていることから右リース料は使用収益の期間に応じた対価の性質を有するものであると主張しているが、毎月のリース料はリース料の支払に期限の利益を与えたものにすぎず、必ずしも使用収益の対価を表わすものでないことは先に述べたとおりである。

以上、本件契約を検討すると、単なる賃貸借契約ではなく、ファイナンス・リース契約であると認めることができる(もつとも、本件の場合、契約の性質の判定にあたつてかなり重要なファクターとなるリース物件自体の価格が不明であり、リース料との関連が明らかにされていないので、この点に疑義を残しているが、このことをさし措いても、さきに挙げた契約の特徴からファイナンス・リース契約であると考える。)。

本件契約はファイナンス・リース契約であると認められるので、原告としては、被告の物件指定により、ディーラー(売主)からリース物件を購入して、被告に対してリースをしている以上、被告からリース料全額の回収をする権利を有するものであり、被告が本件リース契約第一六条一項の定めにより、リース料全額の支払につき期限の利益を喪失した以上、被告はリース期間満了前にリース物件が引揚げられた場合でもリース料全額の支払義務を負うものである(原告(リース会社)が契約を解除しないで(本件において解除の主張はない。)リース物件の引揚(回収)ができるか見解の分れているところであるが、引揚をした場合でもリース料の残額の支払義務には影響を与えないものであり、あとは、引揚がリース会社の権利保全方法として相当であつたかという問題と、契約終了に伴う清算の問題を残すことになるものと考える。)。

従つて、再抗弁は理由がない。

六結論

以上の事実によれば、リース料の残額からリース物件の引揚時の交換価値(リース物件の交換価値が一台分につき三、〇〇〇円程度で、六台分で一八、〇〇〇円の価値を有するにすぎなかつたことは、弁論の全趣旨から認めることができる。)を控除した金一六三万八、〇〇〇円及びこれに対するリース期間の満了の日の翌日である昭和五六年二月二二日から支払ずみまで約定の年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めている原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(山田二郎)

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